prologue
「…………………。」


「こら。

 ごめんなさいは?」


「……いや」


「…だめでしょ?
 
 悪いことをしたら、ちゃんとごめんなさいしなくちゃ…」


「……ディスカ、悪くないもん。

 ちょっと木のえだを、取っただけだもん」


「それが悪いことだって言ってるの。

 この子だってね、あなたと同じように一生けん命に生きてるのよ?」


「こんな……小さなただの木が?」


「そーよー。

 ディスカだって、転んですりむいたら、泣いちゃうでしょ?

 この子は口がないから何も言えないけど、

 本当は、枝を折られちゃってとっても痛いのよ。

 だからちゃんと、ごめんなさい。

 ね?」


「……うん。

 その…………あの……

 ……ごめんなさい、オージュ。

 痛かった…?

 えーと、じゃ……これ、はい。ばんそーこう!

 それと……お母さんから教わったおまじない。

 痛いの痛いの、とんでけー!」


「うん、それでいいのよ。

 ちゃんと大切にしてあげたら、きっとこの子も喜んで、

 いつかディスカを守ってくれるからね。」


「……こんな、ちっちゃいのに?」


「私やお父さんだって今は立派におしごとしてるけど、

 ずっと昔はこの子やディスカみたいに小さかったのよ。

 この子だっていつかすっごく大きくなって

 私なんかよりも立派なお仕事をしてくれるわよ?」


「お母さんは今もちっちゃいけどね!!」

「こーら、それはおかあさんの心がぐっさり痛むから

 言っちゃだめって教えたででしょ!」


「でもいいじゃない、お父さんはそんなお母さんが好きなんだから!」


「それはお父さんが痛い人になるからもっと禁句っ!!」


「あははー、よその人の前じゃ言わないよ〜!!」
  バタバタという足音が遠ざかり
そこにはばんそうこうを貼った小さな苗木が残される